『買いたい空気のつくり方』セールスプロモーションの教科書

『買いたい空気のつくり方』は、電通内のセールスプロモーション専門集団が中心となって構成されている「電通S.P.A.T(Shoppers Promotin And Tactics)」のメンバーの方々がまとめた本で、まさにセールスプロモーションの教科書ともいうべき内容になっています。
前半はセールスプロモーションにこれから関わる方、既に関わり始めた方には最適の内容で、後半はセールスプロモーションに深く関わっている方およびセールスプロモーションを発注する側の方をターゲットとして書かれているように思います。何故なら前半は消費者の意識や関心、購買行動の変化等の消費形態についての現状整理が調査データやAISASモデルなどの理論によりなされているのに対して、後半は主に仮説やこうあるべきではないかという「新たな提案」がメインとなっているからです。これはSP業界への提案であると同時に、クライアントサイドへの提案内容にもなっているような気がします。SPのことを勉強しつつパートナーを探しているような方々に対して、提案内容を広く伝播できるという意味では、このような本の出版というのは非常に強力なツールであると言えます。

前半の教科書的な箇所では、「商品の魅力を伝えるためのストーリー編集力」と「店頭に行ってみたくなるマグネット力」を生み出し継続することの重要性とその方法について書かれています。マーケットポジション最適化から売り場の最適化、店頭メッセージ開発、さらにはセールスシートやセールスマニュアルによる販売員への啓蒙までというSP施策の全体の流れについても知ることができます。
後半のセルフ販売とコンサルティング販売について書かれた章では、コンサルティング販売で得られたノウハウをセルフ販売に生かすことの重要性が説かれています。また、広告・プロモーションと店頭施策にギャップが存在することで生まれる機会の損失について書かれており、マス広告のクリエイティブを各販売店の広告にも活用(連動・統一化)することや、店頭でマス広告を再現すること等も提案されています。また、メーカー主導でマス広告と連動した効果的なVMDツールを提供すること、メーカー主導のマス広告によりコンサルティング販売等の現場を後方支援する等の提案がなされています。

さらに、携帯機器を使ってタイミング良く店頭に誘導する仕組み等、近年使われ始めているSP施策についても触れられていることが特徴です。例えば、ドイツのメトロ社の「フューチャーストア」等の事例も紹介されています。これは、買い物客の持つ端末に対して商品棚に仕掛けた装置からラジオ電波を発信し、現在見ている棚の商品の関連情報等、最も最適な情報をタイミング良く発信するというものです。

また、本書全体を貫くメッセージとしては、やはり帯の裏側にも書かれている

売る人の言うことは信じない。
買った人の言うことは信じる。

そんな時代に、どう売るか。

ということだと思います。その意味でAISASの最後のS(Share)、つまり口コミの重要性についても多く書かれています。
ただ、身近な人の推薦や「お客様の声」は確かにSP施策の成果を大きく左右するものですが、同時にその商品がどのような背景で開発され、どのような技術的意図があって作られたのか、その結果何が実現されているのかといったいわゆる「開発者の声」的なメーカー側の情報も購買検討時の大きな判断材料になるのではないかと思われます。食品の場合は、食材の産地についての情報や、育てている方のメッセージ等も重要な判断材料となります。そのため口コミは何となく沢山あるように見えるが売り手側のきちんとした解説がないよりは、オフィシャルでしっかりとした説明を行っておくことの重要性もけして薄れることはないと思います。

もちろん理想的には、特に企業側が何も説明しなくても、製品そのものの良さから使い手の間でどんどん広がっていき、一方公式情報には「これしかない」というシンプルなメッセージだけが上がっていて、そのメッセージを使い手がさらに反復していく・・・という流れができるのが最も良い形だと思われます。この流れで最も成功している事例としては、やはりよく言われるようにAppleの手法が高度に洗練されているといえるでしょう。

買いたい空気のつくり方―AISAS型購買行動に対応する広告・販促・陳列・接客等のアイデアを電通が提案

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