『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方』個人のブランディングについて

「アートディレクター」佐藤可士和さん個人のブランディング、PR、マネジメントについて、奥さんでありクリエイティブスタジオSAMURAI(サムライ)のマネージャーでもある佐藤悦子さんがケーススタディを交えながら解説しています。
本の出だしが、「ミケランジェロピカソアンディ・ウォーホルのような存在になりたい」という佐藤可士和さんの大胆な発言から始まっていますが、ファインアートの世界ではなく広告デザインの世界でそのような存在になれるのかという疑問や戸惑いを著者自身も持っていたことをまず明らかにした上で、そのような目標に到達するための「アートディレクター=佐藤可士和」というブランディングについて語られていきます。

著者が広告代理店の営業局、雑誌局、外資系化粧品ブランドのPRマネージャーという経歴を経て佐藤可士和さんのマネージャーとしてSAMURAIに参加したという経緯もあり、佐藤可士和さんという個人をいかにブランディングし、PRしていくかに特に力点を置いて紹介されているように思います。
ファインアートの場合は、アーティストの死後に作品そのものの力によって「発見」されて、世界に影響を与えるというケースもあります。しかし、広告デザインの場合、リアルタイムで評価されなければ仕事が続いていかない、仕事がなければ世の中に何も提示できない、という違いがあるように思います。そのため、実績のPRやプレゼンテーションにより、"この人なら何かやってくれそう"という期待感を醸成し続けることが重要となります。だからこそアートディレクターとして社会的に影響力のある仕事を継続的に行っていくためには、何を言って何を言わないか、何を見せて何を見せないかというコントロールのなされたPR活動が、個人のブランディングにおいても必要であることがうかがえます。

仕事の進め方、些細なやり取りも含めたディテール、今後手がけたい分野、オフィス等仕事環境の説明と何故移転したかという考え・・・等ひとつひとつについて丁寧に、そして内容や順番、構成をかなり整理して書かれているのは、この本もまた佐藤可士和さんのブランディングのための集大成的で重要なツールであり、ファンを増やすだけではなく仕事の取り組み方に対する理解者を増やし、ミスマッチを減らすことや目標を達成するためのチャンスをつくることが目指されているからなのでしょう。
今後デザイン会社を興したい、経営したいという方、そしてマネジメントやPRを行っていきたい方には非常に多くのヒントを与えてくれる内容だと思います。


数々のケーススタディが取り上げられている項では、狭義の広告デザインの枠に収まらない、空間設計やプロダクト等を含めて状況全体をデザインするという仕事の広がり、それに伴い佐藤可士和さん、佐藤悦子さんそれぞれが認識を変えなければならなかったことや、新しく勉強しなければならなかったこと等について追っていくことができます。

《掲載されているケーススタディ
ふじようちえん(園舎を含めた環境全般のリニューアル)/NTTドコモFOMA N702iD」(プロダクトデザイン)/イッセイミヤケ(2006春夏ミラノコレクションのインビテーション、プレスキット等のアートディレクション)/明治学院大学(CI)/リサージ(スキンケアブランドリニューアルのクリエイティブディレクション)/国立新美術館(シンボルマーク)/ユニクロ(グローバル旗艦店出店プロジェクトのクリエイティブディレクター)/千里リハビリテーション病院(環境全般のリニューアル)

SAMURAI 佐藤可士和のつくり方

SAMURAI 佐藤可士和のつくり方