「買い場」とは、「買うことを決意する場」だと仮定すると

「買い場」というと一般的には"株の買い時"といった意味でよく使われていますが、広告やSP(セールスプロモーション)の世界でも「売り場」と対比させる言葉として「買い場」という言葉が使われつつあります。昨年末に参加した「関西WEBマスター研究会」第一部のセミナーの中でも、講師を担当されている博報堂の方から"買い場"という言葉が出てきていました。そのセミナーからの帰りの電車の中で、同行した方と「買い場」というのは結局「売り場」と何が違うのかということが話題に出たのですが、結局その時は結論が出ませんでした。

マーケティングやSPの古典で言われてきた「売り手側の視点から買い手側の視点で・・・」といった話と、今使われている「買い場」という言葉の意味するところは同じなのか、それとも何か新たな概念が含まれているのかというのが分からなかったわけですが、「買い場」というのが基本的には「売り場」と同じで、視点を消費者サイドに移したということだけであれば、結局のところ違いが曖昧なため、言葉として流通しにくいのではないかと思われます。また「買い場」について語られる際は店頭のPOPやパッケージについての言及になっていくことが多く、結局語られていることの大半が「売り場」に関することに収束していってしまうような懸念も感じます。

あくまで自分なりに「売り場」と「買い場」というものをどのように区分できるかを考えてみた結果、「買い場」とは「買うことを決意する場」だと仮定すると比較的整理しやすいように思いました。例えば、服なり小物なりを選ぶ時に、Webサイトで色々なブランドや商品写真等を見て調べる過程で、"これが欲しい"というものが決定した場合、その決意した瞬間と、その時に触れていたメディアが「買い場」だといえます。しかし、買うことを決意した後で、実際に近くの店舗に来店して試着なりをしてから購入した場合、この店舗は「売り場」ということになります。もちろんこれには逆の場合もあって、店舗で欲しいものが見つかって、実際に手で触れて買うことを決意したものの、ちょうど良いサイズがその店舗には置いてなかったため、いったん帰宅後にECサイトで該当する商品でサイズがフィットするものを購入するというケースもありえます。この場合は店頭が「買い場」、Webサイトが「売り場」ということになります。

つまり、

  • 「買い場」とは、精神的な決済が行われる場
  • 「売り場」とは、物理的な決済が行われる場

という風に整理すると、実際にお客さんがお金を払った行動だけを見る「売り場」とはまた違った解析をしたり戦略を打ったりしやすくなるのではないかと思います。
販売実績を上げている「売り場」も、もしかしたら商品が陳列されカウンターがある店頭だけを見ていたのでは、売れている原因の本当のところはつかみにくいこともあります。「買い場」はもしかしたら違うところにあって、それが雑誌だったりWebサイトだったり他の人からの推薦だったりするかもしれないためです。あるいはもっと厳密に買うことを決意した瞬間を追っていくと、いったん商品の特性やイメージを記憶した上で、どこか別の場所でそれを使っているシーンをふっと思い浮かべた瞬間に決意するということもありえます。その場合はその瞬間が「買い場」であり、決意を導いた要因を分析していくことが「買い場」へのアプローチに繋がっていきます。

日用品や食材を買う時に訪れるスーパーマーケット等、売り場でそのまま何を買うかを決定する(事前にどのような食材をどれくらいの予算で買うかは決定しているが、具体的に何を買うかは売り場で決める)場合は、「売り場」と「買い場」がほぼ一致するため、「買い場」視点の戦略があまり必要ではないと感じられるかもしれません。しかしこの場合も、食品のブランドについての事前の認知やこれまで買ってきたものの評価等、売り場に行く前にストックされている情報や体験が存在します。それらが"これを買う"という決意を後押しすることも多くあります。単に「売り場」だけを見ていたのでは見落としてしまうことが、買うという精神的な決済が行われる場「買い場」を分析することによって見えてくるといえます。

また、「買い場」をこのように仮定した場合、「売り場」との連結という問題も重要となります。買う意志を一度は決めた(精神的な決済は行われた)ものの、お店が見つからなかったり、Webの場合はフォームの入力で躓いたりして、結局売りには繋がらないというケースが存在するためです。つまり「買い場」がきちんと設計され構築されているのに、「売り場」との連結が悪いために売りに繋がっていないというケースです。

このように考えると、SPにおいて重要なのは「売り場」の構築ではなく、「買い場」の構築と、「買い場」と「売り場」の連結をスムーズにする施策といえるのではないかと思います。「買い場」さえしっかりと構築されていれば、「売り場」への連結がよほど悪くない限りは売れるためです。一番最初に「買い場」という概念を考えた方の意図は全く違うところにあるかもしれませんので、あくまでも私見にしか過ぎませんが、おそらく「買い場」という言葉が使われる時に意図されていることは、このようなことなのではないかと考えています。