『クロスイッチ』「クロスメディア」の意味と実用例について

単に一キャンペーンにおいて複数の媒体を組み合わせる「メディアミックス」とは違う、メディアをまたがって展開されるシナリオに接触することで、製品やブランドに対する強い興味や忠誠心を抱く体験をデザインする「クロスメディア」の本来の形を知るための、事例とノウハウ集です。
数々の事例を交えながら非常に明快に書かれており、ネットに限らず媒体のプランニングに携わっている方には必読の書といえます。
インターネットの普及等により情報量が急増し、消費されない情報が大量に発生し、興味関心領域から外れるものに対しては「情報バリア」を張っている消費者に対して、そのバリアを壊すというよりは「誘い出す」アプローチが重要であるという現状認識の下で、思わず誘い出されてしまうシナリオに基づいた導線設計がなされたクロスメディア企画の事例が紹介されています。

特に本書でなされているクロスメディアの下記の定義はプランニングにおいても非常に重要です。

クロスメディアとは、
【1】ターゲットインサイトやメディアインサイトにもとづいて、
【2】「広さ」(リーチ&フリークエンシー)と「深さ(関与が高まる度合い)を考えた、
【3】コミュニケーションの「シナリオ(導線)」を、
【4】複数のコンタクトポイントを効果的に掛け合わせてつくること。

これらのうち、【3】のターゲットを動かすためのシナリオ(導線)づくりというのがポイントで、これがあるかないかで、単に広さの獲得を志向するメディアミックスと決定的な違いが出るといいます。これは実行しようとすると非常に難しく、どうしても単にメディアの予算を配分しただけになりがちです。
シナリオづくりのために必要なことは、キャンペーンの核となるアイデア=「コアアイデア」、そしてコアアイデアを実現していくための仕組みのアイデア=「シナリオアイデア」です。そしてシナリオアイデアを描くためには、「コンタクトポイント」、「メッセージ」、「心理的なアプローチ」の三つの視点を持つ必要があります。

本書の第3章ではさらにシナリオづくり、クロスメディアの構造設計の手法として、電通さんが提唱しているモデル「AISAS」×「コンタクトポイントマネジメント」や、「キャンペーン・モチベーター」と呼ばれる消費者の深層心理や基本的な欲求を踏まえた仕掛けづくりを行う、といったやり方が紹介されています。
他にもクロスメディアの成功事例やメソッド、ツールが豊富に紹介されており、現在メディアに関わるプランニングをされている方にとってはかなり分かりやすく、頷ける内容のまとめ方になっていると思います。

■紹介されている事例の一部
・「検索しないでください」というメッセージ付きのTVCMから逆にウェブサイトに誘導し、3回同じキーワードで検索した人だけ特設サイトに誘導することで、コアなファン層から一般層への口コミを誘発、さらに交通広告では山手線をめぐる各駅に一話ずつ漫画を掲載し、全ての駅を回って初めてストーリーが分かる仕掛けを行った『集英社ジャンプスクエア」創刊キャンペーン』。コアなファン層をあえてターゲットとすることで、コアな層と一般層に「情報の格差」を生み出し、創刊前に3000人のブログで言及され、コアな層から一般層へ口コミを通じて広がっていったことで、発行部数50万部から10万部増刷し、60万部の売れ行き達成に繋がったそうです。

・"6月28日は街へ出て魔法をかけよう"という交通広告と新聞広告による「予告」によりイベントに誘導し、実際に集まった人達が魔法を唱えると29台のサーチライトが一斉に点灯。未知のものへの興味と、光の塔が実際に出現したことが関心を誘発しPRに繋がった『ハリーポッターと不死鳥の騎士団「魔法の塔プロジェクト」』。

・"自由"をテーマとしたブランドキャンペーンの一環として実際にアニメのDVDを販売し、興行収入と共に若年層に対してブランド認知を獲得した、『カップヌードル『FREEDOM PROJECT』。エンゲージメントを強くするためのアイデア、発想もさることながら、DVDシリーズを実際に製作・販売した実行力に注目すべきキャンペーンでもあります。

カージナルスの看板から突如マスコットの鳥が取り去られるという事件を起こし、注目を得た上ですぐ横の小さな看板に鳥のイラストを描き、"カージナルスは、KTRSに移りました"というメッセージを伝えたラジオ局のキャンペーン『KTRS「盗まれた鳥」キャンペーン』。低予算でもアイデア次第で、莫大なPR効果を得たアメリカのキャンペーン事例です。

・『CREA』『FRaU』で「自分の中にある本当の美しさ」をテーマとした小説を掲載し、それぞれふたつの別々のストーリーがTVドラマでシンクロしていくという展開に、新聞でのPRやWebサイトへの掲載、文芸誌『ダ・ヴィンチ』でのインタビュー記事等を織り交ぜ、新しいファン層を獲得した『爽健美茶 Beautiful Story〜あしたまでの距離』。普通の広告メッセージでは振り向かない人の関心や共感を得る洗練された導線設計が行われています。

クロスイッチ―電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた

クロスイッチ―電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた