失敗談を含めて淡々と書かれた広告エッセイ

普通の広告関連本には載っていないようなエピソードも含めて、1980年代に大阪の広告代理店に勤めていた著者の個人的な経験談が淡々と綴られている本。仕事内容をカッコよく華やかに見せようという姿勢がほとんどないこともあって、中小規模の広告代理店での仕事の進み方や中身について、「実際のところ」がある意味で非常によく分かる本とはいえますが、勉強や業界研究にというよりは、「広告」「大阪」「食」等をテーマとしたエッセイとして読むのがいいと思います。

広告に関する本棚に並んでいるものの大半は、大手広告代理店のスター級の方々が華やかなサクセスストーリーを書いているものが多いですが、この本は失敗のエピソードが大半で、成功したエピソードがあっても、色々な運や事情が重なって何とか辿り着いたといういきさつが細かく書かれており、一般的に流通している広告代理業のイメージとは違う側面を垣間見せてくれます。

主に著者が広告代理店の営業マンだった時代のエピソードを中心にした、小説のようでもありエッセイのようでもある内容の本で、営業マンからコピーライターへの転進をはかるべく宣伝会議のコピーライター養成講座を受け、コピーライターとしての道を歩き始めるまでが書かれています。

ドーチカ(堂島地下センター)の書店に、著者の写真と手書きメッセージ付きの店頭POPが掲げられていましたが、1980年代当時の堂島近辺の様子も書かれており、昔からこの近辺に勤めている人には懐かしく、最近勤め始めた人には逆に新鮮に感じられます。大阪の梅田や堂島、北新地あたりの地理的な記述も多く(表紙カバーのイメージも梅田周辺の地図になっています)、1980年代の街並みがいきいきと記述されています。

また、広告代理業のうち、営業(飛び込みメイン)と新聞広告に関する記述が多く、

事務とか、秘書とかいった見出しに使う大きめの文字は1文字2マス2行分の倍角と1.5倍角がある。数字は1マスに3文字入る。約物は半角になる。ただし約物でも(株)は1文字で入る。( )のことをパーレンと呼ぶ。ビックリマークである!はシズクと呼ぶ。※はコメと呼ぶ。

等の案内広告の書き方等にも触れられています。

後半は営業からコピーライターを目指して勉強や転職活動をする様子が綴られており、コピーライターになりたいという希望を叶えて上京するところで終わります。中島らもさん等関西でコピーライターをしていた人との逸話にも少し触れられており、コピーライティングに興味のある人が読んでも楽しめるのではないでしょうか。

広告放浪記

広告放浪記

イメージングの繰り返しによって行う「段取り」

元同僚から借りた本ですが(だいぶ長期間借りていますが)、『仕事ができる人の「段取り」の技術』という本を紹介します。

まずこの本全体の構成や章立て自体が、著者が伝えようと思っている内容についてよく整理され、「段取り」されたものになっていて、本の内容だけではなく、その構成の仕方、組み立て方そのものからも「段取りの技術」を学ぶことができるようになっています。

本書の冒頭で著者は段取り術を次のように定義づけています。

時間あたりの成果を最大化し、目標を最短ルートで達成するためのすべての計画と行動

特に段取りの悪さから生じる様々な失敗や無駄を防ぐために重要なこととして、「イメージング」が挙げられています。どんな物事でも、思わぬこと、トラブルは付きものですが、事前にイメージングを全く行わなかった場合、次に何をやったら良いか、予期していない事態が起こった時にどう対応したらよいのかが掴めないまま闇雲に進めることになってしまいます。それに対して、ある程度流れやトラブルを予期しておいて、どう対応すれば良いのか事前に把握、準備してから進めた場合、その成果に大きな差が生じます。
しかし、この段取りにおいて極めて重要なイメージングも、まとめて行おうとすると負担や億劫さを感じてしまいます。そこで少しずつ何度も繰り返し行うことで、習慣化しやすくなり効果が発揮されるものであるとして、イメージングを細かく繰り返すことを何度も薄く塗り重ねることで完成形に向かう輪島塗に例えて、「輪島塗法」と著者は呼んでいます。

また、タスク管理においても、タイムスケジュールにおいても「鳥の目」と「蟻の目」両方の視点を持たなければならない、という著者の指摘は重要です。
例えばスケジュール手帳についても、その日の予定を細かく1H単位で細分化していくという「蟻の目」の視点ももちろん重要ですが、それだけでは大局的な視点が不足してしまい、はっと気付くと締め切りが迫っていて数日間では対処しにくい事態になっていた・・・ということも起こりえます。そのため、「鳥の目」の役割を果たす週間スケジュールや、月間スケジュール、年間スケジュールが重要になってきます。
私自身は数年前から『ほぼ日手帳』を使っていますが、日単位では細かく予定は書き込んでいたものの、週単位、月単位のページが真っ白で使いこなせておらず、中長期的な観点を踏まえた「鳥の目」を持つという意識が弱かったことに気付きました。

他方で「蟻の目」を持つということと関連して、本書でも度々触れられていることですが、「タスク遂行までのプロセスを細分化し、分解する」ことの重要性というものもあります。一気にやろうとすると、負担に感じてなかなか手がつれられなかったり、手探りで進めてまた振り出しに戻って修正の手間がかかる等ということになりがちですが、最初に計画しタスクを細分化しておくことにより、取り掛かりやすくなると共に、次の工程をスムーズに進めていくことができます。


他、書かれていることで個人的に気になったのは下記の点です。

・議事録やアイデア、メモを取る媒体はできるだけ一元化する。
もし、資料への書き込み、別の紙に書く、PCのメモ帳に書く等、アウトプットする媒体を多くしてしまうと、自分がメモした内容がどこにあるのかを後から探し当てる作業に手間がかかります。私の場合は一元化とまではいきませんが、議事録はロディアのA5サイズの『meeting book』へ、アイデアや企画書のページネーション等はA4サイズのグリッドが入ったノートに集約するようにしています。


・「1タスク1クリアホルダー」の管理法
複数の案件やタスクを1つのクリアホルダーに入れてしまうと、後から探す時に見つけにくいため、1タスクに1クリアホルダーを割り当てて整理するというものです。以前NHKで放映された『めざせ!会社の星』の「「目からウロコの整理術」では、資料を見つけやすさ、取り出しやすさという観点で挟み込むタイプフォルダを使い、「社内資料」「社外資料」等でシールを貼って色分けする方法が紹介されていましたが、色々な人のやり方を試して自分が最も「見つけやすく取り出しやすい」スタイルを見つけることが大切だと思います。


・1つのメールには1案件
タイトルに案件名を記載して、できるだけ1メールに1案件の内容だけを記載して(案件が分かれる時はメールも分ける)おくことで、後で検索しやすくなるというやり方が紹介されています。確かにメールの場合、タイトル欄に案件名が書かれてあるのが最も探しやすいと思われます。
また、メーラーで未開封のものは太字になったり色が変わったりして視認しやすいことを利用して、「未開封=未処理タスク」として、未処理のものは未開封に設定しTODOリストのように使う方法も紹介されていますが、これは私もよく利用しています。


・悪いことほど早めに報告する
コミュニケーションにおける「段取り」として、悪いことほど早めに報告して、さらに事態が悪化することを防ぐなどの方法も触れられています。


・交渉の主導権を握るためには、事前準備とイメージングが重要
相手が言ってから初めて考えて答えるという、後手後手の対応の場合は、交渉のイニシアティブを握ることができません。事前に何度も準備しておき全体の流れをイメージングしておくことで、主導権をこちらが握ることができます。


・プレゼンはリハーサルを繰り返す準備が重要
プレゼンテーションにおいては企画書づくりと共に、リハーサルにしっかりと時間をとることが重要。資料ができていてもプレゼン時間内にそれが伝わらないまま終わってしまうという事態を防ぐためにも、リハーサルを行っているかどうかで大きな差が出ます。
昔言われたことですが、企画書は必ずしも後で読み返されるわけではなく、プレゼン時間内で伝わらなければそれで終わりというケースも多いためです。

ちなみに著者はAll Aboutの「営業・セールスの仕事」コーナーのガイドを担当されているそうです。

仕事ができる人の「段取り」の技術

仕事ができる人の「段取り」の技術

薬事法に関わるコピーライティングに問われるのは、グレーな表現に対する判断力

医薬品や化粧品の販促物のコピーライティングに関わる人にとって、薬事法への対応は頭を悩ませる問題だと思います。これは言っては駄目、ここまでは言って良い、ということが既に過去の事例(実際に使用していて取り下げになった事例や、交渉の末表現として正式に認められたもの等)としてあるものは、まだ扱いやすいと思います。
問題は過去の事例にも、公式のガイドラインからもはっきりした解が得られない、いわゆる"グレーな"表現にあります。きちんとエビデンスを出して話し合えば認められるかもしれない可能性と、取り下げ/回収せざるを得なくなる可能性のふたつがあるために、表現として使うかどうかの判断や、その表現を強くしたり弱くしたりして調整する判断に専門的な経験や感覚が必要になってきます。

いま、薬事法を把握した上で医薬品や医薬部外品、化粧品のコピーライティングができるという人は非常に貴重だと思います。ただ、そういう人はヘルスケア事業を専門に手がける広告代理店の内部等には何人もいると思いますが、なかなかフリーランスではいないような気がします。薬事法のチェックができる人、薬事法を意識せずになら化粧品の優れたコピーが書ける人はいますが、なかなかその両方ができる人は少ないのではないでしょうか。ニッチではありますが極めて強いニーズのある分野なので、エディターやコピーライターで、今後医療や美容、ヘルスケアに関わるライティングもしていきたい方は、薬事法の勉強もしておいた方が良いと思います。

バズマーケティング施策の予測と効果測定について

やや日にちは前になりますが、日経テレコン21主催の「電通バズリサーチ」に関するセミナーを受けました。紹介されていた「電通バズリサーチ」は現在までのWEB上のクチコミ情報(製品やサービスに関するブログや掲示板等の言及)を蓄積し解析できるようにするというもので、日経テレコン21内でも提供されているようです。

セミナーでは主にマーケティングに占める口コミ情報の役割等についての内容が触れられていましたが、ものを買う時には(特に高価なものの場合)、確かに企業側のアピールする広告的情報だけではなかなか買うという行為に踏み切れないことが多いように思えます。
その際に判断材料として自分と似たような立場の人の声を探すわけですが、そこにも企業が意図的に作り出したという広告的な要素があまりにも見え見えだった場合は、結局参考にしたり信用する度合いが低くなりがちです。慎重な買い手の場合は、あくまでもネガティブな要素も含めた情報の総体でもって買うという決断をするため、ポジティブな要素だけを意図的に作り出していることが見えてしまうと判断を留保してしまうことが多いと考えられます。
(もちろん日用品の一部など、あまり情報収集せずにブランドイメージや信頼、今まで買ってきたからという習慣だけで買う場合もありますが。)

本来バズマーケティングに関わる施策は、その企画やクリエイティブ、関わるスタッフ選定、タイミングなどを綿密に測りつつ、コントロールしつつ行わなければユニクロNIKE等の洗練されたキャンペーンにはなりにくいといえます。
そこにはまず、過去の事例や自社データ等を元に施策の効果を「予測する」という行為が重要になります。しかし、バズマーケティングに関わる施策のもうひとつの難しさは、今までにないようなものでなければ言及もされにくい、ということがあります。そのため、過去に積み上げたものによって行う予測が困難、という事態は必ず付きまといます。
ただ、完全に予測することはできないにしても、漠然とした「ウケルかもしれない」という前提だけで進行するのは危険で、できるだけ多くの類似事例や現在の製品・サービスに関する言及等のデータや検証結果を元に予測し、実施した後もその効果や反応を計測して、適宜修正や改良を加えていくということが重要です。これには時間もコストもかかりますし、人員も必要となります。

そもそもどのような内容であれば、人は言及したり何度も見たりしたいと思うのか。推薦したり教えたり話題にするために、何が必要なのか。
客観的なデータで効果を予測したり解析していくことと共に、そもそも自分が他人に何か話をしようと思った時に、どういう基準で話題を選んでいるかとか、何を面白いと感じているのかということを突き詰めていく視点も重要といえます。一瞬思いついたことが話題になりそうに思えても、自分がそれについて人に話すほどではないと思ったり、他人と共有するほどのことでもないと思うようなことは、やはり盛り上がったりはしないものです。

一部の例外を除いて、バズマーケティングは思いつきだけで短期間で作ったものは失敗しがちです。その原因はやはり予測が甘いことにあると思います。バズマーケティングに関わる施策は先述したとおり正確な予測が極めて困難ですが、しかしこれほど予測が重要な施策もありません。予測とは、何の反応もないかもしれないというネガティブな可能性を含めて、できるだけつきつめて行うべきものです。

予測を行うための指標やデータが限られている中で、「バズリサーチ」のようなクチコミ情報のデータ集積と解析を行う仕組みが今後さらに洗練されていくことと、人が話題にしたがることはそもそも何か(何を人に言いたいほど面白いと思ったり感動したりするのか)を追及していくことが必要と思います。

『はたらきたい。』モチベーションの源泉は、働き始めた後に形成される

時が経つのは早いもので暫く更新せずにいたら半年以上もあいてしまいましたが、更新を再開していきます。
2007年に「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載された内容を編集した『はたらきたい。』について。

面接のテクニック本ってどの本屋にも必ず大量に積まれていますが、初めて就職活動をする人はどうしたらいいのか分からなくて不安なので、まずこの手の本をいくつか買って少しでも安心しようとする、ということがこれだけ面接テクニック本が売れ続ける背景としてあるのではないかと思います。
『はたらきたい。』という本でも紹介されているほぼ日刊イトイ新聞によるアンケートでは、
「これから就職活動をするかたへお聞きします。不安ですか?」という問いに対して
不安:82.2%
不安ではない:17.8%
という結果が出ているようです。

この『はたらきたい。』という本も、そんな就職活動について不安を持っている人が少しでも安心するための本、という側面がありますが、他の就職活動に関する対策本とはかなり違った視点の内容で構成されています。この本の良いところは、就職に勝つという「必勝法」が書かれた本ではなく、そもそも「働く」とはどういうことか?というところに一度立ち返らせてくれるところです。
自分も就職する前は「働く」ということに対して漠然とした不安を持っていました。特に就職活動を始める時期が遅すぎたこともあり、「面接必勝本」的なものを読みつつ絶対に自分でも向いていないと思う業種、職種を焦って受けていましたが、そのまま進んでいない方が良かったと今は判断しています。実際そのままストレートに就職はせずに、バイトをしつつスクールに通うというプロセスを踏みましたが、当時は「まだ就職していない」という不安を抱えたままでした。しかし、今振り返ると結果的には、内容的に合わない仕事を無理に数年続けてから辞めて、そこから軌道修正していくよりは近道になったのではないかと考えています(もちろん別の道を進んでいたらどうなっていたかは分かりませんが)。

就職をしたことのない人は、まだ経験したことのない「働く」ことに対して過剰な不安や恐怖を抱きがちです。その背景には、やりたいことが見つからない、まだ強いやる気を持てる仕事が見つからない、ということもあると思います。しかし、一部の例外的な場合を除いて、多くの場合「やりたいこと」「やる気」というのは仕事をやる前というよりも、やり始めた後で、その仕事の中から生まれてくるものなのではないかと考えます。

「好きなこと」は仕事をする前でも見つけられるかもしれませんが、実際に職業として続けていくためにはモチベーションを維持し続けることが必要となります。
個人的にこの本の対談の中で特に印象深かったのが、第5章の矢沢さんと糸井さんとの対談に出てくる「あがりたかった」という言葉です。
昔「モチベーションの源泉は何か」を同僚から聞かれたことがありましたが、色々浮かびはしつつも何か特定のひとつに絞ることができず、これっていう答えをうまく返せませんでした。何かに追われるように仕事をしてきたため、モチベーションの源泉がどこにあるのか自分でもよく分からなくなっていた、ということもあります。
しかしこの総体的でやや曖昧な「あがりたかった」という言い方が、モチベーションの源泉を表現するために個人的にはしっくりくる言葉であると気付きました。実力や現在の状況を含めて「あがりたい」という意志。徐々にステップを上がっていくことで、これまでは見通せなかったところが見えるようになる瞬間。個人的にはそこにモチベーションの源泉があるような気がします。

ただ、働き始める前は働くことに対するモチベーションはほとんどありませんでした。働き始めた後に、仕事をする過程で、仕事の中からモチベーションが出てきたような気がします。仕事を始める前にも、漠然と「こういうものが好きだ」「こういうことがやりたい」という思いは個々にあると思いますが、よほど自分のやりたいことを早期に見つけて、そのための試行や実践の積み重ねをやってきた人でない限り、やってみる前からモチベーションの源泉の核となるものを持っている人はあまりいないのではないでしょうか。

好きなことが必ずしもそのままイコール仕事になるわけではないのも、好きなことであってもそれを仕事とする中でモチベーションの核となるものを形成できなければ、続けていくことが難しいからではないでしょうか。単に楽しめればいいのか、それともその分野で「あがりたい」という意志を継続的に持ち続けることができるのかで、仕事にできるかどうかが決まるように思います。

はたらきたい。

はたらきたい。

開発のプロが教える標準Plone完全解説

Plone開発者のひとりアンディ・マッケイ氏によるPloneの仕組みやインストール方法、カスタマイズ方法、更新ワークフローまで一通り記載された解説書。Ploneを使用してコンテンツの更新を行っていく運用担当者よりも、インストールやデザインカスタマイズを行う技術者向けということを主軸において書かれた本といえます。
Ploneについて書かれている書籍で、邦訳されているものが少ない現状では貴重な資料となります。

特にPloneに独特のワークフローの理解、tal言語、metal言語の理解といった局面で役立ちます。

また、ベースとなっているZOPEやCMF、そしてプログラミング言語Pythonについて学習してから本書を読むと、内容をより理解できると思います。


Ploneの本自体あまり多くは出版されていないようですが、英語が読める方であれば、Cameron Cooper著『Building Websites With Plone 』等も参考になると思われます。

開発のプロが教える標準Plone完全解説 (デベロッパー・ツール・シリーズ)

開発のプロが教える標準Plone完全解説 (デベロッパー・ツール・シリーズ)

Building Websites with Plone: An in-depth and comprehensive guide to the Plone content management system.

Building Websites with Plone: An in-depth and comprehensive guide to the Plone content management system.

クライシスの対処法

2〜3月の時期には、広告や制作を手がける会社に勤める方の幾人かは、決算上重要な時期ということもあり多重タスクを強いられるケースが多いかと思います。そのためデスマーチや、かなり大きなクライシスに直面することがあるのではないかと考えられます。
敏腕のプロジェクトマネージャーが多数いて、プロジェクトの全てが徹底的に管理されている場合は、特に大きなクライシスに直面することはないでしょう。また、そういったプロジェクト管理の体制や仕組みが出来上がっているところほど、大きなクライシスが起きた時の具体的な手順が微に入り細を穿った形で組織的に整備されているケースが多いため、問題の悪化を回避することができます。

そのような組織的な対処法とは別に、個々のレベルでの制作上のクライシスに直面した時のポイントがあります。それは"クライシスが大きければ大きいほど、慌てずに冷静に対応する"、ということです。大きな問題であればもちろん早急に対応しなければなりません。また、担当者としては未解決の問題に対しては大急ぎで対応して、少しでも早く手離れさせて精神的な平安を得たいと焦ってしまいがちです。
しかし、焦って早急な解決を得ようとすればするほど、別の問題を発生させてしまったり、かえって深みに嵌って問題が悪化するということがよくあります。問題が起こった時に非常に慌てるタイプの人は、普通に対応すれば良い事項に対して過剰な対応を行おうとするためです。クライシスだからこそ、意識的に一度自らを落ち着かせて、今早急に取ろうとしている対処法で本当に良いのか?他に考えられることや見落としていることはないのか?を見直す必要があります。

もうひとつ考えられるケースは、クライシスが同時に数件起こってパニックに陥りかける、というものです。例えば3件同時に起こった場合、まず考えなければならないのは最優先で、最も早く対処しなければならないのはどれか、ということです。まずこの整理を意識的に落ち着きながら行う必要があります。パニックに陥ると、同時に3件に対応しようとして、余計に解決に時間がかかったり二次的なミスを引き起こしてしまったりします。順番を決めて、どう対応するか決めれば、あとは淡々と厳密に対処するのが解決への最大の近道となります。もし3件のうち2件に時間がかかりそうであれば、先に電話等でフォローを行った後で実作業にとりかかる、といったことも必要となるでしょう。
次に考えなければならないのは、うち2件なり1件なりを他の人にサポートしてもらうことは可能か?ということです。一部でもサポートしてもらえそうであれば、取り急ぎ頼んで対応してもらっている間に目前の1件に対応し、残り2件はサポートを頼んでおいたおかげでかなりショートカットできることになります。

危機対応の方法は人により違いはあるかと思いますが、"慌てず冷静に対応する"というのはやはり意識的に行う必要があります。(制作上の問題対処に限らず、ハプニング全般に対する対応にも同様のことがいえると思います。)